IPSJ-ONEとは,情報処理学会の各研究会から推薦された選りすぐりの『若手トップ研究者たち』が,自身の最先端の研究を弾丸トークで紹介するイベントです.登壇する研究者たちの専門分野は,アルゴリズムや通信などの基礎分野から,音楽やゲームなどのエンターテイメント,AI,IoT,量子コンピュータなどの最新テクノロジー,さらには生物学や歴史学などの異分野との融合研究まで,多岐にわたります.
特に昨今は,AIが情報科学の一大分野として急速に発展し,あらゆるビジネス,そして社会全体に大きな変化が訪れています.そのような変革の世の中で,新しい流れを生み出す情報科学の研究と研究者たちが一堂に会する「場」を創ることにより,異分野交流による新たなコラボレーションや,中学・高校・大学生が研究者を目指すきっかけが生まれるような,魅力的かつ刺激的なステージをお届けします!
習慣を変えたいと思っていても,なかなか変えることが難しい,そんな経験は皆さんにもあるのではないでしょうか?これは,我々の認知システムが過去の経験や繰り返しの行動に基づいて自動的に反応するためです.この自動反応は,日常のタスクを効率的にこなすための脳のショートカットとして機能していますが,新しい習慣や行動を取り入れる際の障壁となることも少なくありません.私はこの障壁を乗り越えるべく,生活空間に自然に溶け込むIoTデバイスを活用し,人々の健康的な行動変容を後押しするための研究を進めています.本講演では,私がこれまでに取り組んできたIoT技術に基づく行動変容支援システムについて紹介いたします.
カメラでシャッターボタンを押すと,目の前の被写体を見たままに画像にすることができます.私たちは,人の眼ではとても見えないようなものを見えるようにする,そんな新しいカメラの開発に取り組んでいます.カメラで写真が撮れるのは,被写体からカメラに届いた光を記録して画像にしているからです.一般的なカメラは,カメラに届く光線をすべて計測しているのに対し,私たちは,特定の経路を辿る光だけを選択的に計測する,特殊な撮影装置を開発しました.本講演では,普段は見えない肌の下に隠された血管を,リアルタイムに可視化する技術をご紹介します.
テレビ番組では,芸能人が海外へ出かけて慣れない英語でやりとりする様子がエンタテインメントとして楽しまれています.本研究では,このテレビ番組に着想を得て,スマートフォン一つで海外での生活の「伝わらない」を実感できる英会話エデュテイメントシステムを構築しました.システムの中では,音声の自動認識の仕組みと画像生成AIが組み合わされており,自分の発話から,話し相手に何を思い浮かべさせているのかを画像として知ることができます.AIを相手にすることで失敗を怖がることなく,「上手く話せないもどかしさ」と「やっと伝わった感動」を楽しみながら,英会話能力を向上させられます.
何かを作るために3Dプリンターやレーザーカッターを使うのはもう当たり前のことで,皆さんもそのようなツールを使って色んなものを作ったことがあるかもしれません.でも,「作り方」を作ったことはあるでしょうか?私はこれまで,デジタルファブリケーションにまつわるハードウェアやソフトウェアを工夫することで,「風船のように膨らませたりしぼませたりできる乗り物」や「温めるだけで自動的に目標のかたちへと折れる折紙」を実現してきました.この発表では,新しいデジタルファブリケーションの方法,それによって作ることができるようになった新しいプロダクト,そして計算するものづくりによって実現される新しい体験を紹介します.
世の中には様々な「複数の人が歌う歌」があります.特に日本のアイドルユニットの楽曲には,楽曲の部分に応じて1人で歌ったり全員で歌ったりなどする「歌割り」を持つものが多くあり,多彩な表現力を持ちます.こうしたアイドルユニットの楽曲を自動分析・理解できる技術として「歌唱者ダイアライゼーション」という音楽情報処理技術を提案しました.これは何の事前知識もなしに「いつ誰が歌っているか?」を推定する技術です.本講演では,この歌唱者ダイアライゼーション技術の概要に加えて,他の音声情報処理技術と組み合わせて開発した「VocalRemixer」という音楽鑑賞アプリケーションについて紹介します.
コロナ禍の移動行動制限が契機となり,人間活動を「地理空間」との関係から理解することの重要性が増しています.文章として記された場合も同様です.「ことば」の地理空間で躍動する人間を,コンピュータに理解させるにはどうすればいいでしょうか?そのためには,現実世界の空間に関わる言語表現(言語的知識)と,人間の諸活動を制限する空間的制約(空間的知識)の両方が必要になります.本講演では,言語知能と空間知能を併せ持つコンピュータの研究開発について紹介します.
量子計算で使用される量子コンピューターは,従来のコンピューターとは異なる性質を持ちます.したがって,従来のコンピューターで達成できなかった計算能力が実現可能です.量子コンピューターの応用分野の一つとして,「地理空間情報処理の最適化」があげられます.地理空間情報処理の活用事例としては,多地点最適経路探索,最適人車配置,旅行最適化,物流最適化や交通流最適化などがあり,どちらも人々の暮らしの一環として不可欠なものになります.本講演では,量子計算の理論や処理技術をはじめとして,日常生活における活用事例までをご紹介します.
ヒトの全遺伝情報であるヒトゲノムが決まってから20年が経ちましたが,ヒトゲノムの中にはまだまだ多くの未解明領域があります.特に長鎖RNA遺伝子は,ヒトゲノムの中に数万個あると言われていますが,その99%は機能がよくわかっておらず,その機能解明が病気の原因の理解や創薬などにおいて重要な研究課題となっています.近年,大規模な生命科学データを計算機を使って解析することで生物学の謎に取り組む,バイオインフォマティクスという研究領域が世界的に注目を集めています.本講演では,このバイオインフォマティクスを用いて,病気に関わる長鎖RNA遺伝子を探した私の研究テーマについてお話しします.
AIの処理は大量の計算を必要とするため,非常に長い時間が必要です.AIを高速化する様々な技術が研究されており,その一つがAIモデルの圧縮です.圧縮の技術を用いることでAIは最大で1/20程度に縮小することが可能であることが分かっています.しかし,通常のコンピュータを用いると,これらの圧縮したモデルを一度解凍して処理する必要があります.我々は回路の設計を変更できるFPGAという特殊な半導体回路に注目しました.この半導体は自由に回路を変更できるので,圧縮したAIモデル専用にカスタマイズすることができ,そのまま処理することが可能となり,大幅な高速化を実現することを可能としました.
情報技術の発展により,現在は対面だけではなくオンラインでの発表や授業も可能となりました.対面でもオンラインでも,プレゼンテーションや学校の授業のように,語り手が1人に対して聴き手が多数いる環境で,語り手と聴き手がお互いにコミュニケーションをとりながら活発な議論を行うことは簡単なことではありません.本講演では,語り手が1人に対して聴き手が多数いる環境のことを「1vN環境」と定義し,私がこれまで取り組んできた事例を踏まえながら,ICT機器を活用したこの環境で生じるコミュニケーションの支援について紹介します.
現在磁場センサは,医療や材料工学の方面で使われている重要な技術です.しかし,現在の磁場センサでは感度が十分でなく応用先が限られています.近年,量子コンピュータにも使われている「量子ビット」を用いることで,磁場センサの感度を向上させる研究が盛んに行われています.現在用いられている磁場センサと比べて,量子ビットを用いた量子センサは,原理的には桁違いの感度を出せる可能性があります.本講演では量子センサの原理と,近年の理論・実験の進展について講演をいたします.特に量子センサの背後にある原理と,ノイズ耐性を向上させるための試みについて話します.また近年の実験実証についても紹介いたします.
インターネット上には適切に管理されていないIoT機器が数多く存在しています.例えば,水処理施設のような重要なインフラで利用されている機器がインターネット接続され,誰でもアクセスできるようになっている場合があります.また,組織内のネットワークにおいても古いファームウェアが搭載された機器など,脆弱性な機器が存在します.これらの機器は,放置されたままであればサイバー攻撃の標的となりかねません.私は,このような状況を改善するために,脆弱な機器の発見と,それらの所有者に対する注意喚起に関する研究を行っています.本講演では,実際の事例を交えながら,研究の成果について紹介します.
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